「伯爵と平凡な娘」
ハロウィンの冒険

玄関のある方向へ

玄関から出て、真っ先に目に入ったのは夜でも美しいとわかる庭です。
淡い月の光の下、草花は眠りつつ夜風に吹かれているようです。
あなたは先ほど見た、アーチの下をくぐったり、噴水に近づいてみたり、美術館にありそうな女神さまの像にそっと触れてみたりしました。
どれもこれもが不思議なもので、でも悪趣味ではありません。
ふと、あなたの目の端に小さな、月の明かりとは違う光が入ってきました。そちらに目を向ければ、窓から明かりがもれる小屋がありました。
今どき珍しい、木の板を組み合わせたような小屋です。物置かと思いましたが灯りは一定で誰かいる気配がします。
あなたはそこへ駆けよって、粗末なドアのノッカーを掴んでノックをしました。
ゴン、ゴン。
その時、ヒュウッと風が吹いてザワザワと木々や草花が音をたてました。あなたがちょっと震えていると返事もなしにドアが開きました。
部屋の明かりを背後に背負っているせいで、小屋の主の顔は闇に沈んでいました。
庭師の小屋かとも思い大柄な男かとちょっと身構えていましたが、小柄でほっそりとした様子からどうやら女性のようです。もしかしたらハロウィンにふさわしく魔女であるかもしれません。
「あなた、なに?」
ですがその声はしわがれてもいなければおそろしくもありませんでした。目が慣れて良く見れば、それはなかなかに美人な女性でした。
あなたは屋敷の中から外へ出てしまった事を正直に言いました。すると女の人はため息をつきました。
「人のお屋敷を勝手に歩くなんて、とても悪いことだわ」
女の人は屋敷に戻った後、どこをどうすれば客間に戻れるかを教えてくれました。あなたがお礼を言って立ち去ろうとすると、女の人はまたため息をつきながら言いました。
「あなた、庭をほっつき歩いて少し冷えたんじゃない? お入りなさいな」
あなたはちょっとおっかなびっくり、中に入りました。
小屋の中には、小さなキッチンとテーブルがありました。そこから扉がもう一つ。ベッドなどはそちらにあるのでしょう。
「今ちょうどミルクを暖めていたの」
女の人はよく手になじむカフェオレボウルにたっぷりとミルクをいれてあなたに出してくれました。あなたが手を伸ばそうとすると、
「ちょっと待って」
と女の人が言いました。それから彼女はキッチンのすぐ横の壁に向かいました。そこにはずらりと――不思議な小瓶がたくさん並んでいます。
彼女はそこから小瓶を一つ選ぶと、蓋を外してその中身を数滴、ミルクに入れました。
「さあ召し上がれ」
言われてあなたはカフェオレボウルを包むように持ちあげました。暖かなぬくもりが手に伝わってきます。
そして一口飲むと――何ともいえず良い香りとミルクに溶ける甘さがあなたの口いっぱいに広がりました。
「特別なシロップよ。体が温まるわ」


そっとあなたが小瓶を見るとそのラベルには「 T 」と書いてありました。


女の人はこのお屋敷の薬草園を管理を任されている、という話でした。
小屋の中には不思議な小瓶以外にたくさんの葉っぱや理科の実験で使う道具が合って、思わずあなたが本物の魔女みたい、というと女の人は苦笑したようでした。
女の人と少し話をして、ミルクのお礼を言った後あなたは不思議な小屋を後にしました。

さて、ここから先はどこへ行きましょう?

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